レモン哀歌
2007年 06月 26日
愛する智恵子の最期の時を、光太郎はこう詩っています。
「レモン哀歌」
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱっとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑う
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎわに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼級を一つして
あなたの器官はそれなりに止まった
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう。
前回、前々回と、高村光太郎が愛する智恵子への思いを詩った
3篇の詩をを紹介しました。
これらの詩を読んで、どのように感じられましたでしょうか。
by tabotaboy
| 2007-06-26 15:34