吉野 弘 の詩。
2007年 04月 16日
吉野 弘の 優しさ一杯の詩を紹介します。
<白い表紙>
ジーンズの、ゆるいスカートに
おなかのふくらみを包んで
おかっぱ頭の女のひとが読んでいる
白い表紙の大きな本。
電車の中
私の前の座席に腰を下ろして。
白い表紙は
本のカバーの裏返し。
やがて
彼女はまどろみ
手から離れた本は
開かれたまま、膝の上。
さかさに見える絵は
出産育児の手引。
母親になる準備を
彼女に急がせているのは
おなかの中の小さな命令・・・・愛らしい威嚇
彼女は、その声に従う。
声の望みを理解するための知識をむさぼる。
おそらく
それまでのどんな試験のときよりも
真摯な集中。
疲れているらしく
彼女はまどろみ
膝の上に開かれた本は
時折、風にめくられている。
by tabotaboy
| 2007-04-16 19:14